科学者がアリの脳の再プログラムに成功! 人間にも応用可能か?
アメリカの研究者グループが、SF映画のような実験に成功した。それはアリの脳の再プログラム。
人為的に脳を再プログラムすることによって、その生態を変更することに成功したというのである。さらには他の動物や人間への応用も可能であるという。
遺伝子操作によってアリの生態を人為的に変更
実験をおこなったペンシルヴァニア大学のシェリー・バーガー(Shelley Berger)は生物の行動を制御する物質を突き止めたという。
研究に使用したのはオオアリというアリ。まずオオアリのコロニー(巣)には2種類の働きアリが存在している。一方は「大働きアリ」と言い、大きな体と頭、そして強靭な下あごを持ち、荷物の運搬や外敵から巣を守るために働くもの。そして、もう一方が「小働きアリ」で、大働きアリよりも小さく、その役割はエサ探しや仕事をしないアリを働かせる役目を持っている。大きさは小さいが、数としては大働きアリの2倍ほどいる。
研究者たちは、このオオアリに薬物による遺伝子操作をおこない、生態を改変したのである。
その操作によって下記画像の小働きアリ(画面左)、また成長前の大働きアリ(画面右)は食糧をより活発に探すようになったというのだ。
この再プログラムは遺伝子の操作によっておこなわれる
DNAとタンパク質の密着度によって、遺伝子の活性の度合いが変化する
通常、細胞内にあるDNAは傷付くことがないように、隙間無くみっしりと詰め込まれている。DNAは、「ヒストン」と呼ばれるタンパク質に、らせん状に巻きついているのだ。
このタンパク質にアセチルという物質が加わると、DNAとの間に隙間ができる。こうしてついたり、剥がれたりをすることによって、遺伝子の活性が変わる。
ペンシルヴァニアで同じく研究に携わるダニエル・シモラ(Daniel Simola)博士は、「同じ種類のアリであるにも関わらず、大働きアリと小働きアリで行動様式が違うのは、このヒストンというタンパク質が関係しているのかもしれない。」と語る。
効果は50日!DNAとタンパク質の密着度を操作する薬物
研究において、タンパク質にアセチルを加える働きをするのは、「CBP」と呼ばれる酵素の一種であることが分かったのだ。そして、研究者は、これを操作する薬物をオオアリに与えたのだ。
まず、ヒストンとDNAを結合させる薬物をアリに投与したところ、アリたちは活発に働くようになったのだ。また、ヒストンとDNAの結合を阻害する薬物を投与すると、逆に普段よりも働かなくなったというのである。
小働きアリには効果的だったが、大働きアリにはどちらの薬物も効かなかった。しかし、成長前の大働きアリでは効果があったという。
また、一度の薬物投与で、50日間も効果が持続したというのだ。
他の生物や人間にも応用が可能
アリの行動に変化を与えた「CBP」はマウスの学習機能と関係が深いことが分かっており、人間にも存在するというのだ。
バーガーはこう付け加える「マウスなど他の哺乳動物の実験から、CBPは学習記憶機能との関係が深いことは明らかです。」
「CBPが蟻の社会的役割の分担に決定的な役割を果たすという発見は、人間社会の構造を理解するのに将来役立つかもしれません。」
似たような行動メカニズムが他の動物、更に人間にも存在するため、今回の研究はあらゆる生物の行動をコントロールすることができるということを示唆しているのだ。もしかすると、近い将来、知らない間に自分の行動を何者かによってコントロールされてしまうSF映画のようなことが、現実になるかもしれない。
via:dailymail(英語)